在宅介護に・・・・
8. 希望の足音、そして「要介護4」という衝撃
退院を控えたある日、運命の歯車が再び大きく動き出した。 主治医、母、父、そして私。白濁した緊張感が漂う説明室の扉が開いたとき、私は自分の目を疑った。
「カツン、カツン……」
杖をつき、看護師の肩を借りながらも、母は自らの足で、一歩ずつ地面を噛み締めるように歩いてきたのだ。 あの日、低血糖で床に伏していた姿からは想像もつかない、生命の再起。その足音は、絶望を跳ね除ける凱歌のように私の胸に響いた。
だが、現実は甘くはない。自宅へ戻るためには、生活のすべてを「戦場仕様」に作り替える必要があった。地域包括支援センターの職員が訪れ、静かな自宅に介護ベッド、車椅子、杖といった銀色の器具が運び込まれていく。かつての「日常」が、少しずつ「療養」の色彩に染まっていく。
そして、後日届いた連絡が、私たちを戦慄させた。 「要介護4」 その等級を聞いた瞬間、一瞬、時が止まった。担当者さえも驚きを隠せない、重い宣告。それは母の体が、私たちが想像する以上に深く、病魔に蝕まれていることを示す残酷な数値でもあった。
9. 鉄壁の布陣:在宅という名の要塞
しかし、私たちはひるまなかった。 「要介護4」――それは裏を返せば、月額50万円という巨額の支援枠を武器に、最強の布陣を敷けるという「特権」でもあった。
私たちは即座に動き出した。選任されたケースワーカーを司令塔に据え、訪問看護、訪問介護、そして24時間体制の訪問診療。家の中に、プロフェッショナルたちが集う「聖域」を構築する。
病院の白い壁に守られる日々は終わった。これからは、私たちの愛するこの家が、母を守る最前線となる。 窓から差し込む柔らかな光、父が淹れる茶の香り、そして、あの姫カットのウィッグ。病院では得られなかった「人間としての尊厳」を、この家で取り戻させてみせる。
10. 決意の結び:愛という名の聖戦
私は、自らに誓う。 たとえ要介護4という現実が母の自由を奪おうとしても、私の心まで奪わせはしない。 訪問看護師の手を借り、医師の知恵を仰ぎ、最新の医療を在宅へと持ち込む。使えるすべての制度を、すべてのリソースを、母の「生きたい」という願いを叶えるための弾丸として撃ち尽くす。
「おかえり、お母さん」
その言葉を交わす場所は、もう無機質な病室ではない。 私たちが命を懸けて守り抜くと決めた、この家だ。 どんなに深い闇が訪れようとも、私たちが束になって母を支える限り、この家には決して消えない光が灯り続けるだろう。
私たちの戦いは、ここからが本番だ。 母の笑顔を、その温もりを、私は一秒たりとも離さず、この手で抱きしめ抜いてみせる。